相続」といえば財産を残す側である親が考えるものだと思っていませんか?

 たしかに「相続」に備えて作る遺言書は基本的に本人しか作成できませんし、私有財産の観点からも、自分の財産をどう残すかを決めるのは本人であるべきでしょう。とはいうものの、今回「40歳から考える親からの相続」と題したのは、原則と実体に乖離があると感じるからです。

 当相談室に来られる相談者のなかで、40・50歳代の方もいらっしゃいます。
その多くは、親が亡くなったものの「遺産分割の話がまとまらない」や「何から対処していいかわからない」と深刻な表情で訪れます。
原因の大部分は、亡くなった親御さんの準備不足(遺言書を残していない)ということになりますが、結果的に困難に直面するのは子どもである「あなた」なのです。直面する困難の具体的なお話の前に、親が遺言書を残していない場合の相続がどういうものかを簡単に説明しましょう。

遺言のない相続はタイヘン・・・

 遺言書がない相続は、原則として法定相続人による協議(話し合い)で進めます。これは多数決ではなく、全員の同意をもって、誰が何をどのように相続するかを決めるのです。
一人でも反対すれば協議は成立しません。
この「全員の同意」を要することが高い壁になります。

 例えば、父親が持ち家(1800万円)と預貯金(1200万円)を残して死亡し、相続人は兄弟3人である場合を考えましょう。
この兄弟は昔から仲もよく遺産を三等分することに反対はありませんでした。単純に三等分すると、一人当たり1000万円になります。
では現実にどのように分割しますか?家は分けることはできません。不動産を共有にすることもできますが、この先の相続をスムーズにしたいならお勧めしません。結局、配分は納得できても、その分け方(どのように)に苦労する事例です。

 先述の事例はよく見られるものです。どうしても不動産が絡む相続において等分は難しいものです。
この事例でいえば、親が遺言によって配分を指定しておくべきだったでしょう。仮に「長男には不動産、二男と三男には預貯金を600万円相続する」と遺言が残されていれば、原則は遺言通りに相続を進めることになります。またほとんどの場合、子どもは親の意向に従うものです。一方で、自分たちで決められるとなると少しでも多くの遺産を手に入れたいと思うものです。そうなると仲の良かった兄弟も一転して利害関係人となります。さらにそれぞれの配偶者が加わればなおのことです。

不動産が“負”動産になることも!?

 また、金額だけを見ると不動産を相続する長男が得をしているように感じますが果たしてそうでしょうか?
不動産は活用してこそ価値を生み出します。自宅として住むならよいですが、賃貸物件として貸し出すにも修繕等のリフォームが必要な場合もありそう簡単にはいきません。それに固定資産税の支払いも忘れてはいけません。実際、相続人が老朽化して不便な実家に住むことを避け、結果的に空き家となり放置されてしまう例も少なくありません。

 こうしたことが起こる背景には、親・子世代の間に意識のギャップがあるのです。戦後日本の不動産(主に土地)の価格は大きく上昇しました。親世代の多くは、こうした経験に基づく土地神話があり、不動産は残すべきで、また子・孫に喜ばれると思っています。しかし現状は変化しています。少子化は進み、一部の都市部を除いて不動産の価値は目減りし、売却も容易ではなくなっています。
結果的に子にとって負担となることもあるということです

では現・預金はどうなのでしょう?続きは後半で

~街の身近な法律家~

相続まるっと相談室 佐藤行政書士事務所