相続・遺言の業務に携わっていますと、よく耳にする言葉があります。「ウチは家族の仲が良いし、財産もないから遺言なんていらない」です。

ハッキリ申しますが、これは大きな勘違いをされています。

「遺言」は残される家族(遺族)の仲の良し悪し関係なく作成すべきです。特に日本のように超高齢社会となった社会では必須です。

まずは「いったい何が勘違いなのか」について解説しておきましょう。

「遺言」というと、遺言者が自分財産について死後、誰に何を譲るのかを定めるものと理解されている方が多いのではないでしょうか。それは正解です。しかし、それだけでは理解が足りません。この遺言が持つ、が何を相続するか「権利を確定させる効力」よりも知っていただきたい効力があります。先に述べた大きな勘違いが起きるのはこの効力を知らないだと考えるからです。

私はこれを「手続きを円滑に進める効力」と呼んでいます。

権利確定の効力が相続人の間に及ぼす力である一方で、この「手続きを円滑に進める効力」については「公(おおやけ)」を含めた第三者に及ぼす重要な力と考えています。

例えば被相続人の自宅である不動産を相続する場面で考えましょう。

相続人は子であるA、B、Cの3名です。3名は全員が被相続人である父親と同居していたAが単独で相続することで合意していたとします。実際に不動産の権利を手にするためには登記を変更する必要があります。その際にAが正当な承継人であることを登記官に示す資料が必要になります。

その資料となり得るのが、
①遺言書
②遺産分割協議書

のどちらかです。

遺言書を残していなければ、相続人は遺産分割協議(話し合い)を行い、その結果としての遺産分割協議書を作成する必要があるわけです。「相続人の仲が良ければ問題ないじゃないか。」と思われた方もおられるでしょう。しかしながら現実はそう単純ではありません。

先ほど記したように日本は超高齢社会です。もはや高齢”化”を超えています。親が90歳代で亡くなれば、当然子どももそれなりの高齢です。相続人である子どもが70歳代というケースはもはや日常茶飯事です。

そうなると相続人の意思能力に問題がある場合がでてくるのです。認知症をはじめ、脳梗塞などの病気によって起こることもあるでしょう。そうなると遺産分割協議をするには成年後見人を立てなければならず、手間と費用が掛かります。

ここで理解いただきたいのは「相続人本人が話し合いに参加できなくなる事態が起こりうる」ということです。

こうなっては「家族の仲の良し悪しは関係ない」ということがおわかりいただけるでしょう。実際にこういったケースは増えており、それが原因で相続手続きを放置している家族もいらっしゃいます。

遺言とはまさに「準備」なのです。なにごとにおいても事前に「準備」をしておくことは大切ですよね。相続においては、さらに悪いことに準備をしていない(遺言書を残していない)と手続きが不可能になってしまうことがあるわけです。

そうならないためにも、残された家族が円滑な相続手続きを進められるよう遺言を作成すべきと考えます。

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相続まるっと相談室 佐藤行政書士事務所