前回の要件編①では相続土地国庫帰属制度(以下、本制度と表記)の申請者となれるかどうかという「人」の要件を紹介しました。今回は『どんな土地なら引き取ってもらえるのか(引きとってもらえないのか)』という土地についての要件を説明していきます。
土地の要件については、2段階にわかれてチェックされます。
(1)申請ができない土地
(2)帰属の承認ができない土地 の2つです。
いったいどう違うのか分からないという方もいるでしょうが、(1)は該当すれば却下される、申請すらできない、つまり門前払いになるということです。(2)はとりあえず申請書は受け取ってもらえますが、審査で該当すると判断されると不承認になるということです。
(1)申請ができない土地とはどんな土地なのか見ていきましょう。
①建物が存する土地
②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③通路その他の他人による使用が予定されている土地として、ア~エが含まれる土地
ア 現に通路の用に供されている土地
イ 墓地内の土地
ウ 境内地
エ 現に水道用地、用悪水路、ため池の用に供されている土地
④土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
以上です。上記の①~⑤に該当する土地は申請できません。対処可能であれば、対処したうえでの申請が必要となります。特に①と⑤については多くの方に関わる内容でしょうから詳しく見ていきましょう。
①建物が存する土地とは、文字通り土地に建物が建っていてはダメなわけです。つまり更地である必要があります。ちなみに「建物」とはどういうものを指すのでしょうか。本制度では、不動産登記規則第111条の規定を採用しており「屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるもの」となります。これは山のような広大な土地の一部に建物がある場合でも却下されるとありますので注意が必要です。
実際に建物が建っている場合には、その撤去と建物の滅失登記が必要となります。但し、物置小屋のような場合は、建物というよりは工作物という判断のもと承認される可能性があるので事前相談時に確認してみるとよいでしょう。
⑤境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地については気になる方も多いのではないでしょうか。土地の境界については次の2点をもとに判断するとなっています。
(a)承認申請者が認識している隣接土地との境界が現地で確認できること
(b)承認申請者が認識している申請土地の境界について、隣接地の所有者が認識している境界と相違がなく、争いがないこと です。
(a)については、添付書類である図面及び写真と現地に表示された境界点を確認するとなっています。法務省がホームページに掲載している「相続土地国庫帰属制度のご案内」によると杭や金属鋲などで境界点が示されていることが望ましいとされており、少なくとも境界を示す目印の設置は必須と定めています。目印も一時的なものではなく、承認の際にも判別ができるものが必要です。
懸念されるのは、相続人も訪れたことのない「山林」や「原野」などです。古くから所有しているものですと図面も存在せず、境界の目印も設置されていないことが考えられます。そうなると素人では境界の確認は難しく、土地家屋調査士に依頼をして所在地や境界を特定する必要があります。
申請の入口に立つだけでも「土地を更地にして、範囲を明確にする」必要があるわけです。さらに審査で不承認となる事項(2)帰属の承認ができない土地もあるので注意が必要です。具体的に紹介しましょう。
(2)帰属の承認ができない土地は、
①崖(勾配が30度以上あり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用が又は労力をようするもの
②土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両、又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
③除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
④隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない以下の土地
(ア)(a)又は(b)に該当する土地のうち、現に民法上の通行権利が妨げられている土地
(a)他の土地に囲まれて行動に通じない土地
(b)池沼・河川・水路・海を通らなければ行動に出ることができない土地、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差がある土地
(イ)所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(軽微なものを除く。)
⑤その他、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する以下の土地
(ア)災害の危険により、土地や土地周辺の人や財産に被害を生じさせる恐れを防止するため、措置が必要な土地
(イ)土地に生息する動物により、土地や土地の周辺の人、農産物、樹木に被害を生じされる土地
(ウ)適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林
(エ)国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
(オ)国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
①~⑤まであり、なかなかのボリュームです。国としても活用が難しい土地については引き取ることはできないということでしょうか。
②の樹木については、主に果樹園の樹木を指しています。森林においての樹木は管理を阻害すると判断されるわけではありません。放置車両があったり、宅地において倒木の可能性がある枯れた樹木があるなどした場合は不承認となる可能性があります。
③については、産業廃棄物や建築資材、古い水道管、井戸、大きな石などが該当すると示されています。場合によっては申請前に撤去をする必要が生じそうです。事前相談時に確認することが望ましいでしょう。
実際に申請、審査が始まり、実績が積み重なっていくことで「何が良くて、何がダメか」が明確になっていくことになるでしょう。今のところは現地を把握し、却下や不承認となる事項が見当たらないかの確認をすることが重要でしょう。すでに本制度の事前相談は開始していますので、申請できるかどうか、申請するためにはどうすればよいのか確認し、行動していくことが肝要です。
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